安心安全なパンとは|天然酵母、トランス脂肪酸。安心安全なパンには欠かせない大切な要素があります。ここではその大切な要素についてご説明します。 トランス脂肪酸

●天然酵母=安全?!

 天然酵母について消費者意識調査*を実施したところ、天然酵母パンは『自然』、『安全』のイメージを持つ割合は7.8割を占めており、天然=安全といったイメージが先行しがちです。また、天然酵母パンの本来の特徴である『美味しい』、『本格的』という項目については数値が上がりませんでした。

自然なイメージ(%) 安全なイメージ(%) 美味しいイメージ(%) 本格的なイメージ(%)

*2006年8 月に天然酵母表示に対する消費者意識についてインターネット調査。
 天然酵母パンを食べた事がある646名を対象にした割合です。

 以前は、天然酵母パンというと自然食品店や一部のパン屋でしか販売されていませんでした。しかし、今ではディスカウントストア、駅構内の売店にも置いています。“天然酵母パン”の原材料を確認すると、天然酵母だけではなくイーストが併用されており、ただ単に、天然=安全というイメージを消費者にアピールする目的で天然酵母表示が使われる例が顕在化するようになりました。また、このような製品の多くは天然酵母の特徴がパンに見いだせません。そのため、消費者の天然酵母のイメージあるいは天然酵母表示に混乱を招くので“天然酵母パン”と表示するのは好ましくありません。

そもそも天然酵母パンとはどんなものなのか、イースト(パン酵母)と天然酵母の違いなどについて説明します。

●酵母とは?

 5,000 年以上の昔から人類は自然界に数えきれないほど存在する酵母を、食品やお酒などの醸造に活用してきました。ビール、ワイン、酒などの醸造あるいは製パンに使われる酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属しており、それぞれビール酵母、ワイン酵母、酒酵母、パン酵母と総称されています。
 パン酵母はパン生地中の糖を栄養源に発酵して炭酸ガスとアルコールを生成する力を利用してパンがふっくらと焼き上がります。また、パンに独特な香り、味がするのはパン酵母の発酵によるものです。

●イーストのパン

 “イースト(パン酵母)”はもともと自然界に存在した野生酵母の中から製パンに適した優良菌株を抜粋して純粋培養しています。特に、生イースト(写真:左)は発酵力が強く安定しているので、通常、大量生産されたパンに使われています。ただし、日持ちしないので、家庭でパンをつくる場合はインスタントドライイースト(写真:右)が一般的です。

イースト(パン酵母)の特徴
安定した発酵力
⇒パン生地の発酵が管理しやすい

※イースト=パン酵母

 日本のパン業界では、“製パン用酵母”の呼称としてパン酵母を意味する英語の「イースト(Yeast)」を慣用的に使用していました。このイーストという呼び方には、消費者の一部にイーストと酵母は違うものと認識され、非天然、あるいは安全性が低いものといった誤ったイメージを与える傾向があります。そこで、このような混乱を避けるために、パン製品の原材料表示では「イースト」から「パン酵母」と表示するようになりました。

●天然酵母パン

 果物や穀物に付着している酵母に小麦粉などの穀物粉と水を加えて培養を繰り返し、製パンが可能なガス発生力のある、いわゆる“パン種”、“発酵種”がパンづくりに使用されます。そのような種には、酵母の他に多種多様な乳酸菌などの微生物が増殖して、通常のパン(パン酵母だけで発酵させたパン)以上に独特な風味、香り、食感があります。

天然酵母の特徴
複数な酵母菌、乳酸菌を含む
⇒独特の旨味、風味、食感(酸味・酸臭)が生まれる

※天然酵母もイースト(パン酵母)も酵母

 「天然酵母」、「イースト」はどちらも自然界に存在する酵母です。そのため、天然酵母に対する人工的なものとしてイーストと表現がされている場合がありますがこれは誤りです。
 りんごの種起こしをする方法を図1に示しました。種起こしとは、パン酵母の菌数が少ないため、穀物粉と水を加えて至適な温度で長時間発酵・増殖を繰り返す工程をいいます。また、好ましい品質のパンを安定して製造するためには発酵種を好ましい状態で維持して行くこと(種継ぎ)が必要となります。

りんごの種起しの方法

 また、「天然酵母」の方が安全だというイメージを持つ人がいますが、そうとも限りません。種起こしから種継ぎにおいて温度管理などで不備が生じると、雑菌の繁殖が起こやすくなり、発酵力が弱い、酸味が強過ぎるなどパンの品質が安定しないなどのリスクも高くなります。このように、天然酵母種は原料・環境・技術などの影響を受けやすく、図1に示すように種起こしから種継ぎでも長期間を要するので種の取扱いに手間とコストがかかります。
 “天然酵母”という言葉がすっかり定着していますが、前述したように、果物や穀物に付着している酵母に小麦粉、水などを加えて培養を繰り返しているため“天然酵母種(発酵種)”という表現の方がより正確です。また、このような発酵種の種起こしから種継ぎまでの全てをパン屋独自に行ったものを“自家培養発酵種”と呼ぶこともあります。
 天然酵母パンはどんなものから種をおこすかにより味が異なり、パンに個性が生まれ、それが天然酵母パンの魅力につながっています。

 ※世界の発酵種はこちら